暴言罪の創設に関して
福岡県の筑前町で起きたイジメ自殺事件。去年の自殺連鎖のはしりとなった事件ですが、予想に反して、警察がイジメ加害者の一部を書類送検するという措置をとった。
警察介入のデメリットもあると思うけど、この程度の介入は最低限必要かと思われる。しかし立件の根拠となった「暴力行為法」というのは何だろう? あまり聞いたことがない。
この法律について少し調べてみたんですが、その前に今回の立件に関する東京新聞の記事を一部紹介します。
☆☆☆
「言葉の暴力 解決は学校? 警察介入の境界線は」
福岡県筑前町の中学二年生=当時(13)=が、執拗ないじめを苦に自殺した問題で、同県警が暴力行為法違反(共同暴行)の疑いで同級生三人を書類送検、二人を児童相談所に通告した。県警側は「生徒らは中心メンバーでなく、処罰を求めない」としているが、警察の介入の境界線はどこにある? (山川剛史、竹内洋一)
「送検、通告した五人以外にいじめた生徒はいないのか慎重に調べ『死ね』『うざい』などの言葉が亡くなった生徒に発せられていた事実も把握した。その上で、少年について立件できる事件はこれがすべてと判断した」
(以下省略)
☆☆☆
暴力行為法。
正式名称は「暴力行為等処罰ニ関スル法律」といい、ウィキペディアでは次のように解説している。
「治安警察法第17条の削除に伴って1926年に制定された、団体または多衆による集団的な暴行、脅迫、器物損壊、面会強請、強談威迫などをとくに重く処罰する法律である。これまでに三度の改正が行われてい。」
集団的暴行、労働争議、小作争議などへの適用は納得がいくのですが、次のような記事を見ると刑法の暴行罪や傷害罪と何が違うのか分かりづらい。
「札幌市白石区で8日、女性が男に刃物で切りつけられる事件が2件続けてあった。いずれもけがはない。手口が似ており、札幌白石署は同一犯による暴力行為法違反事件として捜査している。(2/9毎日新聞)」
「南甲府署は8日、コンビニエンスストアの店員に包丁を突き付けて脅したとして甲斐市玉川、無職、池谷秀夫容疑者(57)を暴力行為法違反と銃刀法違反容疑で現行犯逮捕した。(2/9毎日新聞)」
とりあえず条文を比較してみよう。
刑法208条の暴行罪は、
暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
同法204条の傷害罪は、
人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する
暴力行為等処罰に関する法律の第1条、第1条の2は、
第1条 団体若は(もしくは)多衆の威力を示し、団体若は多衆を仮装して威力を示し又は兇器を示し若は数人共同して刑法(明治40年法律第45号)第208条、第222条又は第261条の罪を犯したる者は3年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処す
第1条の2 銃砲又は刀剣類を用いて人の身体を傷害したる者は1年以上15年以下の懲役に処す
2 前項の未遂罪は之を罰す
3 前2項の罪は刑法第3条、第3条の2及第4条の2の例に従う
これらを見ると、集団的な暴行については懲役刑の上限が「暴力行為法」の方が重くなっていますよね。それに「暴力行為法」の条文の中に「~をして刑法208条の罪を犯したるものは…」なんてなっていますから、「暴力行為法」が「刑法」に対する特別法となってることが分かります。いわゆる加重類型に該当するわけです。暴力は暴行でも集団的な暴行であれば「刑法」に優先して「暴力行為法」が適用されるというわけです。
一方、上に挙げた札幌市の二つの事件は「暴力行為法」の第1条の2が念頭にあるようですね。第1条の2の第2項の未遂罪に相当する行為だったと考えられます。前者の事件は、刑法の暴行罪に該当するけどこの第2項が優先的に適用され、後者の事件は、刑法の暴行罪にはおそらく該当しないけど(微妙ですが)この第2項が適用できたということかと思います。
さて、話は戻りますが、筑前町三輪中学校の事件では自殺をした森君を羽交い締めにして、かつ、集団でズボンのホックや学生服のボタンを無理やり外したとのこと。確かに「暴力行為法」第1条に該当しますね。
でもですね、今回の立件では法律の限界というものを感じます。精神的な障害(PTSD障害とか)を被ったとして刑法の傷害罪が適用されることはあっても、精神的な暴行について刑法の暴行罪が適用されたという話は聞いたことがありません。このイジメ被害にあった森君の心には相当な暴行が加えられたはずなのに、立件されたのは肉体的な暴力行為についてのみです。心への暴行を客観的に調べることはほぼ不可能ですから仕方がないんですけど、肉体への物理的な暴力に対する扱いと比べると非常にアンバランスな感じがします。少なくとも特定の言葉、例えば「死ね」「出来損ない」「キチガイ」みたいな言葉については「暴言罪」みたいなものを創設してもいいんではないかな? どうでしょうかね?
ちなみに今回の立件について福岡県警は、言葉によるイジメは「証拠がなく立証が困難」とし、トイレの件についてのみ「嫌がる相手を無理やり押さえつけた。いたずらの限度を超え、法に抵触する」と判断したそうです。
「死ね」とか「いつ死ぬと?」とかの言葉のイジメを執拗に繰り返したクラスメートへのお咎めは一切なしでした。
言霊の幸ふ(さきはう)国、日本であればこそ、言葉にもっとナーバスな社会になってほしいと願う。
言葉は人を生かしもすれば殺しもするわけですから。
警察介入のデメリットもあると思うけど、この程度の介入は最低限必要かと思われる。しかし立件の根拠となった「暴力行為法」というのは何だろう? あまり聞いたことがない。
この法律について少し調べてみたんですが、その前に今回の立件に関する東京新聞の記事を一部紹介します。
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「言葉の暴力 解決は学校? 警察介入の境界線は」
福岡県筑前町の中学二年生=当時(13)=が、執拗ないじめを苦に自殺した問題で、同県警が暴力行為法違反(共同暴行)の疑いで同級生三人を書類送検、二人を児童相談所に通告した。県警側は「生徒らは中心メンバーでなく、処罰を求めない」としているが、警察の介入の境界線はどこにある? (山川剛史、竹内洋一)
「送検、通告した五人以外にいじめた生徒はいないのか慎重に調べ『死ね』『うざい』などの言葉が亡くなった生徒に発せられていた事実も把握した。その上で、少年について立件できる事件はこれがすべてと判断した」
(以下省略)
☆☆☆
暴力行為法。
正式名称は「暴力行為等処罰ニ関スル法律」といい、ウィキペディアでは次のように解説している。
「治安警察法第17条の削除に伴って1926年に制定された、団体または多衆による集団的な暴行、脅迫、器物損壊、面会強請、強談威迫などをとくに重く処罰する法律である。これまでに三度の改正が行われてい。」
集団的暴行、労働争議、小作争議などへの適用は納得がいくのですが、次のような記事を見ると刑法の暴行罪や傷害罪と何が違うのか分かりづらい。
「札幌市白石区で8日、女性が男に刃物で切りつけられる事件が2件続けてあった。いずれもけがはない。手口が似ており、札幌白石署は同一犯による暴力行為法違反事件として捜査している。(2/9毎日新聞)」
「南甲府署は8日、コンビニエンスストアの店員に包丁を突き付けて脅したとして甲斐市玉川、無職、池谷秀夫容疑者(57)を暴力行為法違反と銃刀法違反容疑で現行犯逮捕した。(2/9毎日新聞)」
とりあえず条文を比較してみよう。
刑法208条の暴行罪は、
暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
同法204条の傷害罪は、
人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する
暴力行為等処罰に関する法律の第1条、第1条の2は、
第1条 団体若は(もしくは)多衆の威力を示し、団体若は多衆を仮装して威力を示し又は兇器を示し若は数人共同して刑法(明治40年法律第45号)第208条、第222条又は第261条の罪を犯したる者は3年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処す
第1条の2 銃砲又は刀剣類を用いて人の身体を傷害したる者は1年以上15年以下の懲役に処す
2 前項の未遂罪は之を罰す
3 前2項の罪は刑法第3条、第3条の2及第4条の2の例に従う
これらを見ると、集団的な暴行については懲役刑の上限が「暴力行為法」の方が重くなっていますよね。それに「暴力行為法」の条文の中に「~をして刑法208条の罪を犯したるものは…」なんてなっていますから、「暴力行為法」が「刑法」に対する特別法となってることが分かります。いわゆる加重類型に該当するわけです。暴力は暴行でも集団的な暴行であれば「刑法」に優先して「暴力行為法」が適用されるというわけです。
一方、上に挙げた札幌市の二つの事件は「暴力行為法」の第1条の2が念頭にあるようですね。第1条の2の第2項の未遂罪に相当する行為だったと考えられます。前者の事件は、刑法の暴行罪に該当するけどこの第2項が優先的に適用され、後者の事件は、刑法の暴行罪にはおそらく該当しないけど(微妙ですが)この第2項が適用できたということかと思います。
さて、話は戻りますが、筑前町三輪中学校の事件では自殺をした森君を羽交い締めにして、かつ、集団でズボンのホックや学生服のボタンを無理やり外したとのこと。確かに「暴力行為法」第1条に該当しますね。
でもですね、今回の立件では法律の限界というものを感じます。精神的な障害(PTSD障害とか)を被ったとして刑法の傷害罪が適用されることはあっても、精神的な暴行について刑法の暴行罪が適用されたという話は聞いたことがありません。このイジメ被害にあった森君の心には相当な暴行が加えられたはずなのに、立件されたのは肉体的な暴力行為についてのみです。心への暴行を客観的に調べることはほぼ不可能ですから仕方がないんですけど、肉体への物理的な暴力に対する扱いと比べると非常にアンバランスな感じがします。少なくとも特定の言葉、例えば「死ね」「出来損ない」「キチガイ」みたいな言葉については「暴言罪」みたいなものを創設してもいいんではないかな? どうでしょうかね?
ちなみに今回の立件について福岡県警は、言葉によるイジメは「証拠がなく立証が困難」とし、トイレの件についてのみ「嫌がる相手を無理やり押さえつけた。いたずらの限度を超え、法に抵触する」と判断したそうです。
「死ね」とか「いつ死ぬと?」とかの言葉のイジメを執拗に繰り返したクラスメートへのお咎めは一切なしでした。
言霊の幸ふ(さきはう)国、日本であればこそ、言葉にもっとナーバスな社会になってほしいと願う。
言葉は人を生かしもすれば殺しもするわけですから。